「祐一さん具合がよくないの?」

朝一番の秋子さんの言葉。

「そんなことないですよ。ただ昨日ちょっと夜更かししたもんで」

笑ってごまかす。

「そう?それならいいですけど…。夜更かしもし過ぎると体に悪いですから気を付けて下さいね」

そう言って笑い返してくれる秋子さん。
本当は夜更かしが原因でないということくらい気付いているのかもしれない。
それでも何も言わないでいてくれることが今の俺にはありがたかった。


          GATE  中編      

昨日の夜。
俺は昔の俺から訳の分からない話を聞かされた。

「選択って…。俺が何を選択するって言うんだよ」

「8年前…君に何があったか覚えてる?」

くそ、思いっきり無視かよ。

「覚えてるも何もな…。あゆが俺の目の前で木から落ちた。そのことか?」

「正解。じゃあそのあと君はどうなった?」

質問ばっかりしやがって。何が言いたいんだ?

「その冬の記憶がなくなった。違うか?」

それが俺の罪の始まりであり、これからも償っていかなければならないものだ。
が、昔の俺は思いもしないことを告げた。

「そこが君の世界の始まり。7年前、君は自分の世界を作ったのさ。それまでの世界にいた君はね、
記憶をなくすなんて器用なことが出来なかったんだ。生きる気力を失くして、ずっと眠ってる。今も、ね」

明らかに俺は動揺していた。
冗談は止めろ、と笑い飛ばせばいいはずだった。
でも、何故かそれは出来なかった。

「じゃあ、この世界は夢だってのか?俺は8年も夢見てただけだってのかよ!?」

「世間一般で言えば夢と言えるものかもしれない。でもね、ここまで完成されてしまえば一つの
世界とも言えるんだ。だから、君に選んでもらうために僕は来た。今の世界に留まるか、それとも」

そこで昔の俺は言葉を一度切った。

そしてゆっくりと続きを口にした。

「元いた世界に、戻るか」

何て言えばいいんだ?俺はどうすればいい?


「…そっちの世界の俺は今どうなってる?」

気付けば訳の分からない質問をしていた。

「病院のベッドの上さ。ちなみに、さっきから君は8年と言うけど、君が前にいた世界では
7年しか経ってない。どうやら微妙に二つの世界の時間の流れは違うらしくてね。
まぁ、長い年月がたったことには変わりないんだけど」

「答えは何時までに出せばいい?」

馬鹿な。考える必要なんてない。こっちの世界が俺の全てだ。

何言ってるんだ、俺。

「そうだね。あんまり時間がないことは確かなんだ。三日。この三日で答えを出してもらう」

今答えを出してしまえばいいだろ!俺はこの世界に残るって!

「分かった」

だが、俺の口をついて出たのは思っているのとは違うものだった。

昔の俺はそれを見て、満足したように消えた。

「それじゃ、三日目の夜にまた会いに来るから」

という言葉を残して。


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そして俺は今日も学校にいる。

そして、みんなと一緒に昼食をとる。

北川とふざけて、香里の鉄拳が飛び、名雪と栞が笑う。天野が呆れる。

そんないつもの出来事。愛しく感じる。


そして、遠く感じていた。

学校から帰る途中にはあゆがいる。

二人で商店街をブラブラする。

何をするわけでもないけれど、とても楽しい時間。

…遠く感じる。

帰れば秋子さんと真琴が迎えてくれる。
ギャーギャーとうるさい真琴。
俺がからかうとムキになって突っ掛かってくる。

それを楽しそうに見守ってくれる秋子さん。

…遠い。


夢なのか!?こんなにリアルなのに!!
こんなにも楽しいのに!
夢だって言うのか!!

俺は失くせない。たとえ夢だとしても。
この世界を手放すことなんて、できない。


そして、一日が終わる。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


今日は国民休日でお休みだ。
こんなに憂鬱な休日は初めてだけどな。

気晴らしに商店街に出る。と…

「祐一さ〜ん♪」

「おっ、佐祐理さん…と、舞」

ずびしっ!

「ぐおっ!鈍ってないな、舞」

「私はオマケじゃない」

「悪かったって。それにしても二人して何してんだ?買い物か?」

佐祐理さんはともかくとして舞が買い物なんて珍しい。

「散歩してたんですよ〜♪よかったら祐一さんもどうですか?」

佐祐理さんの向日葵のような笑顔に頷くしかない俺。

その後本当に三人で街中を散歩することになった(汗)


公園で一息つく。

佐祐理さんが気を利かせて飲み物を買いに行ってくれた
取り残される俺と舞。


「祐一」

舞が突然俺を呼ぶ。

「ん?」

「祐一、どうかした?元気がない」

相変わらずストレートだ、こいつは。

「いや、別に何もないぞ」

「そう」

しばらく無言でいた。が…

「なぁ、舞。もし、俺がいなくなったらどうする?」

我ながら格好悪い質問だな、くそ。

「そんなの嫌」

「いや、そうじゃなくてだな…。そうだ、例えば俺が舞の知らない世界に行ってしまったら?」

「私の知らない世界?」

「そう」

「だったら私は…頑張ってその世界を探す。祐一とは…一緒にいたいから」

やっぱり、舞は舞だった。

「あははーっ♪そうですよ祐一さん。佐祐理達にとって祐一さんのいない世界なんて考えられません」

何時から聞いてたの、佐祐理さん(汗)

でも、そうか、探してくれるか…。

舞が言うと本当に俺を探し当ててくれそうな気がするな。

「うん、何か元気出た!さんきゅな、舞、佐祐理さん」

二人はにっこり微笑み、そして言った。

「「やっぱり元気なかったんだ(ですね〜)」」



二日目が終わる。そしてやって来る。

約束の日。



中書き

ペペ「ふぅ」

祐一「前後編で終わるんじゃなかったっけか」

ペペ「ふぅ」

祐一「何とか言えや、コラ」

ゴスゴスゴス。

ペペ「ごめんなさい(泣)何か長くなったんです」

祐一「理由になってねぇ」

ゴスゴスゴス。

ペペ「だって、ほんとに気付いたら長くなってたんだもんよー(泣)」

祐一「約束はぁ?」

ペペ「守るもの」

祐一「大正解っ!」

ペペ「はぐあっ!!」

ドガァッ!

…後編(ほんとに)へ続く。