桜の花びらが宙を舞っている。

長く、そしてとても大切な冬が終わりを告げ、季節は春。

雪融けと共に芽吹き始めた草木のように

今、俺たちの時間も動き始めている。

待ち望んでいた世界。皆が笑っている日常。

今、俺は幸せの中にいた…。



           GATE  前編



季節は春だ。つまりは新学期である。
北の某街でもそれは例外ではなく、俺達は無事3年生となった。
…のだが。

「祐一〜、走るよ〜!」

「残り時間は?」

「あと10分だよ〜」

「間に合うかっ!!くそっやっぱり名雪が早起きなんて奇跡だったんだっ!」

「そんなことないよ〜(汗)今日はたまたま、だよ」

ここ最近は寝坊せずに起きてくる名雪を見て少し安心していたのだが、やはり俺が甘かった。
つい最近まで名物となっていた登校ダッシュ復活である。
所詮は名雪ということか。

まぁ、なんだかんだで俺もこの状況を楽しんでいる感もあるしな。

「祐一、何にやけてるの?」

「別ににやけてなどないぞ。ほら、そんなことより早く…」

グニャリ。

突然世界が歪む。
何だ!?
名雪も、周りの家も、さっきまで走っていた道路も、まるでテレビが壊れたときみたいに歪んで見える。

「ぐっ、くそっ!!」

頭痛までし始めやがった。

「……ち……いち…」

く…世界が…遠くなる…!

「祐一!」

名雪の声と共に世界が元に戻る。

「どうしたの?急にぼーっとして。学校遅れるよ」

「だからもう手遅れだって」

「そんなことないよ。頑張れば間に合うよ〜♪」

「はぁ。んじゃ走るぞ」

「うん!走るよ〜♪」

再び登校マラソンを始める俺達。

しかし、さっきのは一体なんだったんだ?
歪む世界、突然の頭痛、そして…。

俺は確かに聞いた。あの歪んだ世界の中で。誰かの…囁く声。

『時間だよ…』

時間?何の時間だ?訳が分からない。
でも、何故か心に引っかかる。
何かとても重要な事のような気がしてならなかった。

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当然の如くに遅刻した(泣)
それでも、うちの学校は廊下に立たされたりということはない。
あれは時代錯誤なんだよな。
ナンセンスだ。

しかし、授業を受けていても今日の朝のことが頭から離れない。
結局昼休みになるまで考え続けてしまった(汗)

時間、時間ね…。
俺、誰かと約束したっけか?
いや、そんな種類の問題じゃないだろ。

わっかんねー…。

「相沢君?」

「んあ?」
顔を上げるとそこにはどアップの香里がいた。

「うをっ(汗)」

「何?私の顔見て驚くなんて失礼ね。ちょっとシメてあげよっか?」

顔は笑ってるが目が笑ってない。

「いや遠慮しとく…(汗)で、何か用か?」

「ん?なんかぼーっとしてたから。何かあったのかな、と思って」

「いや…なんでもない」

「そう?それならいいけど。せっかくみんな一緒に笑って迎えられた春なんだから。
相沢君だけ暗い気持ちでいるのはナシよ」

笑ってそう言う香里の気持ちがありがたかった。
まぁ、確かに考えてもしょうがないことだしな。

「そうだ。相沢君、今日昼食はどうするの?」

「え?特に決めてないけど…」

「じゃあ一緒に食べない?って、私が言わなくても栞が言うとはおも…」

「祐一さ〜ん、一緒にお弁当食べましょう!」

ドアが派手な音を立てて開き、栞が飛び込んでくる。

「噂をすれば…だな(笑)」

互いに顔を見合わせて笑う。

「でも覚悟してね。量は例によってアレだから」

そう言いながら苦笑する香里に俺はげっそりした顔で応える。

「手伝えよ」

「私、少食なのよ」

俺一人で食えってのかよ(泣)

その後、暇そうにしていた北川を誘い、名雪と天野も参加して昼食タイムとなった。

弁当は北川や名雪、天野も手伝ってくれたおかげでなんとか消化できた。
あんな量、一人で食える奴がいるなら見てみたい。
拷問の一つとして使えるだろ。

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そんなこんなであっという間に放課後。
結局あの後、あの奇妙な感覚に襲われることはなかったし、ただの疲れかなんかかな?

せっかくだし商店街にでも行くか。
周りの面子はみんな部活だし、たまには一人というのも気楽でいい…

「祐一君っ!」

どがっ!

「ぐはっ」

倒れそうになるのをなんとか持ちこたえ、俺の腰辺りにぶら下がっているモノを見る。

「…ラグビーの練習か?あゆ」

なんとなく今後の展開が読めたのか、バツの悪そうな顔をするあゆ。

「えーと…あはは、祐一君に会えたのがつい嬉しくて…」

そう言われるとこっちもきつくは言えない。

「ったく…まだ退院したばっかなんだからよ。もうちょっと大人しくしとけ」

あゆの目覚め。
それは一番待ち望んでいたことかもしれない。
みんなが笑っている場所に、あゆは欠かせない存在だったから。
少なくとも、俺にとっては。

「ねぇ、祐一君。今日はこれから何処に行くの?」

「ん?そうだな、今日は…」

グラッ!

またかっ!
いや、朝感じたのよりも酷い…。
世界が壊れてしまったかのような感覚。

そしてまた…

また、あの声が…何処からか…聞こえてくる…

『時間だよ…』

「だから何の時間なんだよっ!!」

叫んだ瞬間、世界が元に戻る。
だが、朝と違って、頭痛に加えて激しい嘔吐感がした。

「ゆ、祐一君!?大丈夫?」

心配するあゆを手で制して立ち上がる。
どうやら知らないうちに膝をついていたらしい。

「悪い、あゆ。今日はどうも体調が悪いみたいでな。帰るわ」

「うん、それはいいけど…。ほんとに大丈夫?」

あゆに手を振ることで応え、家路につく。



夜。
俺はどうしても眠ることが出来ずに、今日の出来事を考えていた。

時間。
一体何の時間だっていうんだ?

でもこれだけは分かる。俺にとってとても大切なことがこの言葉に隠されている。
一体何なんだ…。
あゆのことも思い出せたんだ、きっと今回も…

『お悩みかい?』

誰かの声に思わず顔を上げる。

「誰だ!?」

俺の目の前には、一人の少年が立っていた。
年の頃は…10歳前後だろうか。

「誰だ、お前?」

『あらら。分からないのかい?悲しいなぁ』

俺がお前を知っているだと?
でも、言われてみれば何処かで見たような気が…

「!!」

「分かった?」

「ちょっと待て!俺はここにいるだろうが!お前は…お前は…!!」

少年は、俺だった。正確に言えば7年前の、俺…

『説明するのは難しいな。それに、僕がここにいることが重要というわけじゃない。
今日は君に伝えに来たんだ』

「何を」
自分でも声が震えているのが分かった。
知りたいこと。だが、聞いてしまえば俺の全てが壊れてしまうような、恐怖。

『選択の時が来たんだ』




『君がこの世界に留まるか、それとも元の世界に戻るか、その選択をする時が』



俺は訳も分からずただ呆然と少年の言葉を聞いていた。



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後書き?

どうもペペです。遂に初の前後編スタイルです。

つーことで今回はペペオンリーでお送りする後書き!

つってもまだSSは終わってないから後書きて言っていいのか分からんですが。

ちなみに今回、最初から前編、後編に分ける予定でした。

どんなに短くなっても。ええどんなに短くなろうとも…(ニヤリ)

というわけで後編もすぐです。多分。

聞いてない?うん、ペペもそう思うさー。

自己満足ですから。