思いきって髪を切った。

ショートにした髪は思ったより随分と軽かった。

まるで、私の思いが染み付いていたかのように。

もしそうであれば、髪と一緒に私の暗い気持ちもなくなったのだから悪いことではない。

でも現実は違う。

私のこの暗い気持ちは一向になくならない。



          

        SCISSORS



美容室を出る。
外は春を思わせる陽気。
こんな気持ちは似合わない。そんなことは分かっている。

私だって変わりたいとは思っている。
だから、今時古いと思われるかもしれないけど髪を切って気分を変えようなんて思い付いたのだから。

でも、やっぱり髪を切ったくらいじゃ何も変わるはずがなく。
大体ショートカットにするなんてあの子の真似をしているみたいだ。
いや、実際真似をしているのかも。
ショートにすれば祐一が私を見てくれるんじゃないかという間抜けな期待。


彼が外見で人を選ぶことはないということは私が一番よく知っているはずなのに。


…私が好きになった人、祐一には彼女ができた。
とても可愛い子。ショートカットがよく似合っている。
似合いのカップルだと思う。私の目から見ても。
この子なら私も諦められる、そう思った。

でも気持ちはついていかない。
諦めなければならないと認識した頭、諦めきれない気持ち。
…どうしたらいいのだろう?


「名雪?」
誰かに呼ばれて顔を上げる。
目の前に立っていたのは親友の香里だった。
「やっぱり名雪じゃない。ショートカットだから一瞬気付かなかったわよ」
「あ、香里〜。どうしたのこんなところで」

今の気持ちを香里に悟られるのはマズい。余計な心配はかけたくない。
香里は昔から鋭い所があるし気を付けないと。

「こんなところって商店街に私がいるのは変かしら?って名雪どうしたの?顔色悪いわよ」

って思いっきりばれてる(汗)
なんとかごまかさないと。

「そ、そんなことないよ〜。きっと春の陽気のせいなんだよ〜(汗)」
ああっ自分で言ってて訳分かんない(泣)ドツボだよ〜。

「はぁ…。どうせ相沢君がらみでしょうけど。らしくないわよ、あんたが暗い顔するなんて」

「!」
祐一の名前が出ただけでつい反応してしまう。
これは思ったよりも重症かもしれない。

「ホントに大丈夫だよ。大した事ないから」
優しくしてくれる人がいるのは有り難いことだけど、その優しさが痛みとなることもある。
今の私には香里の優しさが辛かった。

私は半ば逃げ出すように香里と別れた。

今は誰とも会いたくない。

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…気がつくと日はすっかり沈んでいた。

香里と別れた後は何処をどう歩いたのかよく覚えていない。

辿り着いた場所はものみの丘。
周りには何もなく、冷たい風が私の肌を刺す。でも、今の私には似合いの場所のような気がした。


…どうしてこんな気持ちになるんだろう。

よりによって、どうして気持ちを吹っ切ろうとした日にこんな気持ちになるんだろう。

私がどんなに思いを寄せても、現実は何も変わらない、

祐一の気持ちが変わることはない。

そんなことは分かりきっているのに。

どうして。


…どうして私の恋は実らなかったんだろう…どうして祐一は私じゃない他の誰かを好きになってしまったんだろう…

わからない。何もわからない。

わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない
ワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイ!

もう、嫌…。



「…こんなとこにいたのか」

突然の声にドキッとして振り向く。
目の前に立っていたのは祐一だった。

「ったく…秋子さん心配してたぞ。朝出てったきり帰らないってよ。あんま親を心配させんな」

慌てて目に溜まっていたものを拭う。

「散々探しまわったぞ…。まさかこんな所にいるとは思わなかったからよ」
「……」

何も話したくない…話すことなんてない。

しばらく、二人とも無言の時間が続いた。

そして、その沈黙を破ったのも、やっぱり祐一。

「…何かあったのか?」
「…別に」

素っ気無く返す。
でも内心では祐一が心配してくれることを喜んでいる私がいる。
嫌な女だ、私。
諦めなきゃいけないのに。諦めなきゃ…

「あのさ、名雪…」
祐一が切り出す。

「何で悩んでるのかは俺には分からないけど…」
静かなこの場所に祐一の声だけが響く。

「もし、名雪が困ってるなら、俺はいつでも名雪の力になるから」

…どうしてただの従姉妹である私にそんなこと言うの?

「…そういうことは彼女に言ってあげたら?」
少なくとも私にそんなことを言ってもらえる権利はない。

「そうか?確かに恋人も大事だけどな。俺にとっては家族も同じくらい大切だから。欲張りかもしれないけど
俺はその人達全てを守りたい。その人達が困っている時は俺は自分の全てを擲ってでも助けてやりたいと思う。変か?」

「…馬鹿」
馬鹿なのは私。祐一がこんな人だっていうのは昔から知っていたはずなのに。
彼女ができたと聞いて、もう私のことは見てくれないような気がして一人で落ちこんでた。
そんなことなかったのに。
そんなことあるはずがなかったのにね、祐一。

「そろそろ帰るか。寒ぃし腹減っちまった」
照れているのを隠すように笑う彼。

「…うん」

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帰り道。

「そういや、えらく髪切ったんだな。何でまたいきなりそれなんだ?」

うっ、ほんとの理由なんて言えるわけない。
「も、もうすぐ春も近いしさっぱりしようかと思って。あ、あはは…」

「ふーん。まぁなんにせよ似合ってるじゃねぇか。つーか名雪のショートなんて初めて見たし、なんか新鮮だな。」

嬉しい。素直に思うことができた。
今までの暗い気持ちがウソみたいに晴れていく。

確かにまだ整理のつかない気持ちもあるけれど、それはゆっくりと時間をかけて整理していこう。

いつか、祐一がいなくなってもちゃんと笑えるようになってるから、だからその時が来るまで…

「名雪ぃ(泣)早く帰ろうって。まじで行き倒れになる…」
「はいはい♪」


もう少しだけ、祐一を頼らせてね。







後の祭

「船長っ!このままだと駄作箱に突っ込んでしまいます!」

「分かっておる!だがもう、後にはひけんのじゃ!」

「嫌だ〜!駄作は嫌だぁ〜(泣)」

「むぅう…やはり無理の有る航海だったか…」

書いてる途中のペペ内物語。ええ、無理がありました。ペペの実力では。

そして駄作箱へ。