とある放課後のことだ。

「祐一、今日部活だから遅くなるね」

いつもの名雪の言葉に手を振ることで返し、俺も教室を出る。

と、目の前に見知った顔が。

「よぉ香里。お前も今帰りか?」

俺の少し前を歩いていた香里が振り向く。

「あら、私も『部活』よ相沢君」

「あん?お前部活してたの?」

「1年の時から入ってるわよ…そうだ!相沢君今部活やってないわよね?」

うげ。勧誘かよ。

「やってないけど入る気もないぞ。どうせもうすぐ3年、受験勉強の年だからな」

「まぁまぁ、見るだけでいいからさ、おいでよ♪部室もあるし、お茶くらいなら…」

「その『見るだけ』ってのがよくある手なんだよなぁ」

とは言いつつも。

香里がどんな部に入っているのか、興味が無いわけではない。

「で、何部に入ってるわけ?」

まぁ当然の質問だと思ったのだが、香里は『来たら教えてあげるから』と取り合わない。

「ったく…仕方ねぇなぁ。今日だけだぞ?」

ついそう言ってしまった俺。

ああ、この時、もうちっと俺に考える力があれば。

この間違った選択をすることもなかっただろうに。

しかし、この時俺は、エロゲーで言うところの『バッドエンドへ一直線!』の選択肢を選んでしまったわけだ。

『私のこと好き?』と聞くヒロインに『嫌いですごめんなさい』の選択肢を選んでしまったわけだ。

俺の馬鹿。





            美坂考古学研究所
                                 その一




妙にハイテンションな香里に連れられやって来たのはサークル棟西館。
主に文化系のサークルが使っているところだ。

「さあ入って入って!何もないけど♪」

そう言ってドアを開ける香里。


「…何もないな」

「だから言ったじゃない、何もないって」

しかし、それでも物には限度というものがあるぞ。

その部屋にはテーブルが一つ置いてあり、その上にはノートパソコンが一つ。

そして本棚にはいくつかの本があるばかり。


「なぁ香里、来たら教えてくれるつったよな。ここ、何部だ?」

「見ての通りよ」

「帰宅部か」

「コロスわよ。どこをどう見たらそういう回答になるわけ?」

「どこをどう見てもそういう回答になるだろ!」


俺の反応に、やれやれと香里は首を振り、本棚を指差した。

取り敢えず『読め』ってことか?

納得いかないものの、本を取る。



『偉大なる空中都市マチュピチュ』

『消えたムー大陸の謎』

『インド神話の歴史考察』

『聖杯〜語り継がれる奇跡の至宝〜』


エトセトラ、エトセトラ。


「…ああ、SF研か」

ごん!!

「その勘違いが一番ムカツクのよね」

「痛ぇよ!分厚い本の角で殴んな!!大体、どこが勘違いか!!」

俺の抗議に、さもバカにしたように大げさなため息をつく香里。

それは『これだから素人は…』と言ってるかのようで、非常にムカツク。

「そんじょそこらのSFなんかと一緒にしてもらっちゃ困るわね…。いい?相沢君。これは考古学。
れっきとした学問なのよ」

「ってことは香里のやってる部活って…」

「そう!ご名答!そしてようこそ相沢君!美坂考古学研究所へ!!」

背中から陳腐な後光が現れるかの如く両手を広げる香里。


「部活じゃねーじゃねーか!!何だ研究所って!!つーか、お前が部長なのかよ!!」

「まーいーじゃない、よくある話よ」

「よくねーよ。よくある話でもない。つーか、こんな部に部員なんているのか?」

内容はともかくとしても、この強烈なキャラクターに付いて行ける奴がいるとはとても…。

「あら、失礼ね。ちゃんといるわよ」

いるのか(汗)

「まぁみんな楽しんでやってるなら問題はないけどな…。何人いるんだ?部員」

「え、数?そうね、私と…」

そう言って指を自分へと向ける。そしてそれを今度は俺のほうへ…って待て待て待てっ!!

「あなた」


言っちまったぁ〜!!!!


「おい!5分前くらいにしかここに来てない俺が何で部員なんだ!!つーかそれで終わりか!!
やっぱりただの趣味じゃねーか!!」

「しっつれいねぇ。その辺で自己満足してる輩と一緒にしないで?仮にも考古学研究所なんだから」

「その訳の分からんプライドはどこからやってくるんだ。部員一人のくせに」

「だから二人だってば」

「俺を頭数に入れんなっつってんだろ!!」

「まぁまぁ。あ、ちなみに相沢君に質問。エジプトにあるギザのピラミッドはある星座を模して作ったと
言われていますが、その星座とはなんでしょう?」

なんでいきなりクイズ番組…?
しかしまぁ、有名な話なので答えてやる。


「オリオン座の三ツ星だろ?それがどうか…」

「ピンポンピンポン大正解!!では次の問題です。オーパーツとは何の略?」

「あ〜っと。Out Of Place Artifactsだろ?その時代にはあるはずのない技術力を必要とする工芸品とかなんとか」

「正解!!やっぱり私の目に狂いはないわね。入部を許可します!!」

「おいっ!何でそうなる!!香里、やっぱお前病院行った方がげぶら!!」

首が180度曲がる衝撃に呆然とする俺。
一体今、何が!?

揺れる視界の中には、香里の笑顔。そしてその先には、固く握られ、赤くなっている拳。

やっぱりお前か(泣)

「病院なんて行ってる場合じゃないのよ!お願い相沢君、今、私にはどうしてもあなたが必要なのよ!もし
今回手伝ってくれて、全部終わったら…ね?」

そう言って俺の手を握ってくる香里。

こんな細い腕であの破壊力が…って違う。

何か上目遣いで頬を桜色に染めて。

すげー色っぽいぞおおう。

え?もしか、この雰囲気、香里のこの表情。

××××ってことなのか?

だよな、どう考えても××××って感じだ。


「し、仕方ねぇな…」

うむ、仕方ない。
××××じゃな。

漢ならば刀は腰に差せって奴だ。

どんなだ。

「ほんと!?ありがとう相沢君!!」

輝くような香里の笑顔。
まぁこの笑顔が見れるのなら、ちっと頑張ってやるかな?

どさっ。

「うおっ…と。…香里?ちなみにこの雑誌は?」

「うん、多分相沢君今あんましお金持ってないだろうなーって思って」

「ああ、まぁすげー持ってるってわけじゃないけど…そんな金使うのか?」

「そりゃあねぇ。旅費だけでも結構…」

…旅費?

「なぁ香里、ちょと待った。お前どこに行くつもりなん…?」

「え?トルコ」

「ふ〜ざけんなぁ〜!!!」

「んもう!いきなり大声出さないでよ。大丈夫、丁度夏休みだし♪頑張って稼いできてね♪」

「夏休みバイトで潰せってか!!」

「目標30万♪」

「オイオイマジなのかよ…っておい香里!なんだよこの『マグロ』って!!マグロ漁船なのかマグロ拾いなのか
はたまたマグロ君なのか…てマグロ君ってなんやねん!!つーかどれでもヤだっ!!うわーん!!」


「ふぁいとー♪」


こうして僕の地獄は始まったわけで…。






後書き


また続きものかよっていう感じなわけで…。

とはいえ、今回は大まかな流れは頭にあるから。

少しは早く書き上げられるかなと思います。

一応先に言っておくと、これは当然ふぃくしょんですから、考古学とか言ったって大嘘ぶっこいてますから。

ダメだろって?ダメだよね…。ダメ人間だから…。

その辺を温かい目で見守っていただきたく思うわけで…。