雨は好き

子供の時から好きだった

雨の日はお姉ちゃんも家にいて私と遊んでくれたから

私は外に出れなかったから

雨の日に文句を言いながら登校するお姉ちゃんが

少し羨ましかった

外に出たことのない私だから当然傘は持っていない

傘を持って雨の中を歩いたことはない

そんなことが出来る日はもうやって来ないと思ってた




                      雨の日には傘を差して


私は例によって随分早く待ち合わせの場所に着いてしまった。
もう私には時間がたっぷりと与えられているというのに。
あの時は思わなかったけど、これは私の性格なのかもしれない。
そう思うと、少しおかしくて笑ってしまう。
私は悲劇のヒロインでも気取っていたのだろうか、と。


外は雨。
当然私の手には、傘。
差して歩くことはないと思っていた、傘。
もちろんあの人に早く会いたくて、そして待っている時間を楽しみたくて早く出てきたのだけれど、
早く傘を差してみたかったという気持ちもないとは言えない。


…それにしても遅い。
もう待ち合わせの時間からは30分も過ぎている。
彼が来たら文句の一つも言ってあげないと…

「すまん、栞」

「遅いですよ、祐一さん」


一応膨れては見せるものの、彼の顔を見た途端、考えていた文句はどこかに行ってしまった。
好きな人の顔を見れるということは、やっぱり嬉しいことなのだ。

「悪い、出掛けにちょっと用事が入っちまってな。待ったか?つーか、待ったよな」

本当に申し訳なさそうな顔をする。

反省してるようだし、このくらいで許してあげますか。


「仕方ないですね、今日の私は機嫌がいいですから許してあげます」

でも、次からは遅れないで下さいね♪

「本当にすまん。でも何かあったのか?機嫌がいいって」

彼が聞いてくる。

「そうですね…」

そう言って私は空を見上げた。
無数の雨粒が私の傘を叩いている。

「雨が降っているから…ですかね?」

そう言って私は微笑んだ。

彼は最初不思議そうな顔をしていたが、やがて納得したようにに頷いてくれた。

「ふぅん…なるほどねぇ…雨か」

理由は分かってないのかもしれないけど

「なんか、栞らしいって感じだな」

そう言ってくれる彼が私は好き。


「そうだ。遅れたお詫びと言っちゃなんだが、今日は栞の行きたいところに連れてってやるよ」

「本当ですか!?」

「ああ、と言っても俺の知ってるところしか連れて行けないから…」

「商店街、学校、公園、居候先の家、ですか…(汗)」

さすがにディズ○ーランドに連れていけとは言わないけれど、いくらなんでもこの人の行動範囲は狭すぎはしないか、と思う。

「う、先に言うなよ…。でもまぁ、その通りだ」

「はぁ(汗)。祐一さん、少しは新しい場所も覚えてください」

もちろん今のままでも充分に楽しいけれど、たまには違う雰囲気の中で彼と過ごしてみたい。
そういう気持ちもないわけではないのだ。

「まぁ、そのうちな」

むぅ。なんだか上手く逃げられたような気がする。


「じゃあ、ちょっとその辺を歩きませんか?」

突然の私の提案に少なからず彼は驚いたようだ。

「歩くって、この雨の中をか!?」

「はい。雨の中、一つの傘に二人で入って歩くんです。なんかドラマみたいで素敵ですよ♪」

「いや、俺も傘持ってるし」

「じゃあ、閉じてください」

「いや、マテ」

「待ちません」

「マジか…(汗)」

狼狽する彼。
やっぱり恥ずかしいのかな?

「冗談ですよ(笑)」

冗談半分、でも、本気も半分。
ちょっと残念だけど、でも彼が嫌なら仕方ないか。

ビリッ!

何かが破れるような音に私が振り向くと彼が困ったような顔で立っていた。

「ぬおっ!傘が破けたっ!むぅ、やはりコンビニの350円傘、以外と脆い…」

破けるはずがなかった。彼はただ傘を差して立っていただけなのだから。

「つーわけで栞、すまんが傘に入れてくれるか?さすがに”春雨じゃ濡れて参ろう”とは言えんからな。風邪はひきたくないぞ」

「祐一さん古いですよ、それ」

彼の冗談に合いの手を入れるだけで、その後私は何も言えなかった。
すごく嬉しかったから。本当に、すごく…
嬉しくて言葉が出なくなることって本当にあるんだなぁ。





雨の中を二人で歩く。
傘は一つ。
自然と鼓動も早くなっていく。
今日は太陽が出ていないから影は見えないけれど、もし見えていたら私は真っ赤になっていたかもしれない。

…でも、彼はどうして私が本当は期待していたことが分かったんだろう?
冗談です、って言ったにもかかわらず。

「あの〜祐一さん」

「ん?なんだ?」

「もしかして私、顔に出てました?」

「何が?」

「だから、相合傘したい光線が出てたかな〜、と(恥)」

「ハテ?なんだ栞、そんなもん出してたのか?いや〜全然まったくちっとも気付かんかった」

すまんすまんと謝る彼。

本当に嘘が下手。
でもそんな下手な嘘が、私を幸せにしてくれる。
こんな嘘ならいつでも大歓迎ですよ、祐一さん。

クスッと笑って私は彼を見る。

「祐一さん、今日は街中を練り歩きますよ〜!」

「それは無理」

「駄目です。最後まで付き合ってもらいます!」

「あり得ない」

「あり得ます!」




彼とじゃれあいながら歩く雨の街。

雨の日がもっと好きになった、そんな一日。









後書き

ペペ「だってばよ」

祐一「さよけ」

ペペ「雨の日の栞の話を書いてみたかったんだ。俺の中ではよく出来た方だと思うんだが」

祐一「一つ言うならば、お前には似合わん」

ペペ「何故に!?わしにゃあ色恋沙汰は似合わねぇってですかい旦那!」

祐一「何で時代劇調なんだ…」

ペペ「最近はまってるんだ。八丁堀の七人とか」

祐一「あ、そ(汗)まぁ好きなものを書くがいいさ、読んでくれる奇特な人がいるかは知らんがな」

ペペ「…わしゃ耳が遠いでのぉ〜(汗)」

祐一「こんな作者ですが感想やご意見などありましたら掲示板などに書いてってください、と。」

ペペ「よろしくお願いします」(ぺこり)