『ねえ、星を見に行かない?』

『いいね。今日の夜は星の下で君と語り合おう』


なんて、愛を語り合っている二人。

当然現実にこんなアホなことを言う奴がおるはずもなく、テレビのドラマの中で、だ。が、

「「どわ〜〜っはっはっはっはっは!!!!」」

俺と晴子はツボにはまっていた。

「かゆい!!かゆすぎるでコレ!!あかん、あかんて、死ぬ〜!!」

「そう笑うな、これはマジドラマなんだから」

とはいえ、これ見てた奴で笑ってない奴がいたなら見てみたい。が、

「…………」

いた。

俺の隣に真剣な表情で画面に見入っている者が、若干1名。

「お母さん、往人さん、うるさい」

微妙に怒気をはらんだ声で俺達を睨む。

「お、おい、観鈴…。まさか、これ見てロマンチック〜とか言うんじゃないだろうな」

「なに〜っ!!あかん、観鈴!お母ちゃん、そんな子に育てた覚えないで〜!!」

驚きと失望、怒りと悲しみの声、である。

「う…。いいもん、お母さんたちに常識がないだけだもん」

「「そりゃお前じゃ〜っ!!」」




          星に願いを




「ね、ね、往人さん」

おもしろドラマが終わって、さて俺は納屋へ(泣)と立ち上がると、観鈴に呼び止められた。

「何だ?観鈴」

「あのね、今度星、見に行きたい」

「却下」

「わっ早い(汗)お母さん並み」

ふっ、驚いたか。
まぁしかし、こいつもやたらと何にでも影響される奴だな。
大体俺にあのドラマの再現やれってのかよ。

・・・・・・・・・・。

うわ、はっず〜。
想像するだけで死にたくなる。

「ねぇお願い往人さん〜」

「あんなドラマの真似なんぞ死んでもやるか!」

「ええやんやったら〜♪往人ちゃんめっちゃ似合うで〜♪」

茶々を入れてくる晴子。くそ、楽しんでやがるな。

「うるさいおばさん。絶対やらん。じゃあ俺は寝るぞ」

「誰がおばさんじゃっ!!」

「ね〜往人さ〜ん、ドラマの真似しなくていいから〜」

二人を無視して納屋へ。





季節はもう冬になろうとしていた。

「寒ぃよぉ…(泣)」

毎日が生きるか死ぬかってのはどうよ?
あのおばさん、マジで鬼だ。
コートを着て、マフラーを巻いて寝ているが、所詮納屋。
身を切るような寒さが俺を襲う。


しかし、それでも睡魔はやってくる。
俺は、これが永遠の眠りにならないことを祈りつつ、眠りについた。




次の日。

夕食を終え、居間でテレビを見ながらボーっとしていると、晴子がやってきた。

「何ボサッとしてんねん、居候。はよ準備し」

いきなり訳が分からん。

「なんの準備だ…ってなんだ晴子、どっか出掛けんのか?」

コートにマフラー、手袋と、晴子の姿はどう見ても外出する格好だ。

「何言うてんねん。星見に行くんやろ?ほ・し!」

なんですと?


どうやら晴子にはめられた模様。
晴子の顔を見れば一目瞭然、明らかに邪悪な種類の笑みだ。
が、元々不精の晴子をここまで突き動かすものとは…?

「まぁ、ほんとは観鈴と二人で〜っと行きたいとこやろうけど、”おばちゃん”も混ぜたってや〜(ニヤリ)」

くっ、そういうことか。
そこまで根に持たんでもいいだろうに。

「もう観鈴は外で待ってんで。はよ着替えてき」

そう言って晴子は出て行った。

「はぁ〜…。まぁ、仕方ねぇか」

納屋に行き、通常なら寝巻き代わりのコートとマフラーを掴んで外に出る。

「やっほ〜、往人く〜ん♪」

「遅いぞっ!国崎往人っ!!」

「…こんばんわ…」


「…何でお前らがここにいる」

門を出ると、観鈴と晴子以外に人が。

佳乃、美凪、みちる、聖…毛玉まで。

「ぴこ〜(怒)」

「はいはい悪かったよ、ポテト。だから心は読むな」

「ほな行こか」

晴子が先頭きって歩き出す。
それにならって、他の奴らも動き始めた。

「なぁ晴子、星見に行くって何処に行くんだ?」

以前、遠野と星を見た時は学校の屋上だったが、さすがにこの時間だと開いてないだろ。

「ん?海や」

「海?海で星がよく見えるのか?」

「別にどこでもええねん。この田舎なら見えにくいとこ探す方が難しいわ」

…確かに。






「わぁ〜。着いたぁ〜♪」

「きれい〜♪」

「みなぎー、みなぎも早く行こー♪」

海についた途端、佳乃、観鈴、みちるの三ガキトリオが走り出す。

それに俺達も続いた。

辺りには遮るものなど一つもなく、ただ、夜の暗い海と、満天の星空がそこにあるのみ。
聞こえてくる音も潮騒の音だけ。

「さすが…。星がきれいに見えるな」

都会ではこんな星空はまず見ることができないだろうな。
空の何処を探しても、星のないところはないくらい、空一杯に敷き詰められた星々。

なるほど、星を見るのは確かにロマンチックなことなのかもな。

「往人さ〜ん、ね、ね、あの星、何?」

観鈴が指差す方向には、一際輝く星があった。

「む…あ、あれはな…そう!不幸の星だ」

「不幸の星?」

「そう、よく言うだろ、『私は不幸の星の元に生まれついたのよ』とかなんとか。あれがその、不幸の星なのだ!!」

ぐっは、自分で言っててアレだが、ものすげぇ嘘くせぇ。知るわけねぇだろ、俺が。

「へ〜。そうなんだ〜」

信じるなよ。
しかし、せっかく引っかかってくれたんだ、もう少しからかってやろう。

「そう、観鈴、お前の不幸もみ〜んな、あの不幸の星のせいなんだ!!」

「え〜!?そうなの!?酷いよ、不幸の星さん!!そんなに私、嫌い?」

「泣くな観鈴!!生きてりゃいつかいいことも…「…北極星…」」

「「え?」」

いきなり乱入してきた遠野に思わず注目してしまう俺達。

「あれは…北極星…不幸の星じゃ…ないですよ…?」

「え?そうなの?」

聞き返す観鈴に頷き返す遠野。

おいおい(汗)今更になって正解出されてもよ、俺はどうしたらいいんだ?
ドウスリャイインダ!?ドウスリャ!?

「あっはっは〜!!どうやら違ったみたいだ観鈴!良かったな〜不幸の星じゃなくて!!」

とりあえずハイテンションでごまかすことにしてみたが…?

「にはは〜、うん、良かった〜♪」

あはは、俺も良かった〜♪お前が単純で。
危ねぇ危ねぇ。危うく観鈴に馬鹿呼ばわりされるとこだったぜ。

「ねぇ往人さん、あれは〜?何座〜?」

安心したのも束の間、更に観鈴の質問が。

「くっ…」

こりゃもう、腹くくるしかねぇな。

「ん、あれか?あれは『飛べない翼に意味なんかねぇよ座』だ」

「へ〜」

「国崎さん…何気にひどい…でもそこがまた…ぽっ(赤)」

「おいおいおい遠野っ!!『そこがまた』の後はなんなんだよ!?」

「ちなみにあの星座の…ホントの名前は『ぎょしゃ座』…」

「人の話を聞けよこんちくしょう!!」

「ね〜ね〜往人さ〜ん、あの星座は〜?」

「お前らなぁっ!!」

「ね〜ね〜あの星座〜」

くそ、答えてやらにゃ先に進まん。てかこの拷問が終わらん。

「あ〜?あれか、あれはな、『不思議毛玉犬もどき座』だ」

「え〜!?変な名前〜」

「本当だぞ。証拠を見せてやる、ポテト」

「ぴこ〜?」

呑気にぴこぴこやってきやがる、馬鹿め。

「いいか〜?観鈴、見てろよ〜」

がしっ!!

ぼむっ!!

「ぴこ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜………」

キラッ。

「ほらな。毛玉犬もどき星人は、こうして星に帰っていくんだ」

「「ほ〜〜」」

感心して頷く観鈴アンド美凪。

「ええっ!?ポテトどっか行っちゃったの!?ヤだよぅ〜私を置いていかないでよ〜(泣)」

チッ、うるさいのがまた一匹増えやがった。

「ちなみに本当の星座は『こぐま座』〜」

くそ、いちいち突っ込むなよ、遠野。

「ね〜ね〜。往人さんあれは〜?」

「あれか、あれは『変な電波受信娘座』と言ってぐあああああっ!?」

せ、背中が痛ぇっ!!

「ふふふ…国崎君、改造とホルマリン漬け、どちらが好みかな…?」

「聖っ!!だからって何もメスはないだろっ!!」

「ふっ…君の父上がいけないのだよ…はっはっはっはっはっはっ!!」

いかんこいつも電波が…何か、変なヘルメット被って赤い彗星とか言われてる奴の電波が…。
姉妹揃って電波め。

「ん?何か言いたそうだが…?」

「いや…なんでもない…」

言ったら次は絶対に心臓だ(汗)

「ね〜ね〜往人さん」

「次はなんだよ?」

「あれ〜、あれは〜?」

「あれか。あれは『酔いどれ年増の御乱行ざぁあっっっ!!!」

ごき♪

「まだ言い足りんのかいこのあほちんがっ!!って、あれ?居候?」

「わ、往人さん大丈夫?」

大丈夫に見えるか?観鈴。

「わわっ!往人くん、死んじゃったよぉ〜♪」

その”♪”は何だ佳乃…。

「…………」

何かしゃべれ遠野…。

「…えへ…」

「国崎往人、討ち取ったり〜♪」

てめぇはいつか絶対いてこます…。

そんなことを考えながら、景色がだんだんとブラックアウトしていった。


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「はっ!?はるまげどんっ!!」

目覚めは最悪だった。
何なんだ今の俺の台詞は(汗)

「やっと目ぇ覚ましたと思ったら、何言うとんねん」

頭上から声が聞こえる。

「うぅ…。神様、頼むから遣わす天使に関西弁は止めてくれ…」

「悪かったなぁ関西弁で。それにウチは天使とちゃうで。…はっ!?打ち所悪かったんかいな…」

「…晴子か」

ん?しかし、どうやら俺は寝ているようだが、何故にすぐ近くから晴子の声が聞こえてくるんだ?

「晴子、お前何やってんだ?」

「見て分からんかぁ?膝枕や、膝枕」

そう言って意地悪そうに笑う。

速攻で起き上がる。

「……」

「なんやねん、その目は(汗)」

「お前…何を企んでる?」

晴子が俺に優しくするのは、何か企んでいる時か、記憶が飛ぶほど飲んでいる時か、どっちかだ。

「別にぃ?ちょっとやりすぎた思たから、面倒見てやっとるんやんけ」

「怪しい…」

「むかっ!!え〜よ、そう思っとき!………まだ寝といたほうがええんとちゃうん?」

むむ…何かいつもとは違うな、雰囲気が…。

「ああ…まぁ…じゃあもうちょい横にならせてもらうわ」

「そうしとき」

そしてしばらく二人とも無言だった。
少し遠くから、観鈴達のはしゃぐ声が聞こえてくる。
もう、星観察は止めてしまったらしい。飽きっぽいやつらだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ありがとう」

不意に晴子が喋り出す。
意表を突かれた俺は、多少面食らう。

「は?何が」

「あの子の笑った顔、最近はよう見るようになったんや…。昔のとちゃう、ほんまもんの笑顔や。あんたのおかげやな」

「別に…。笑えるようになったのは観鈴が成長しただけのことだろ…」

「ん〜、そらちゃうな。あの子が変わったのはあんたが来てからや。今ではもう、友達と遊んどっても癇癪も起こさんし。
自分の力だけであんなに変わることなんてでけへんよ。違う?」

「それを言うなら晴子、お前が一番頑張ってんじゃねぇか」

俺の言葉を聞いた晴子は、クスリと笑った。

「あんたに励まされるとは思わんかったわ」

「…………」

俺は何も言わずにいた。




「あの子もウチも、いつかは、別れる。いつになるかは分からへんけど、それでもいつかは別れる時が来る。どんなに長くても、
ウチが死ぬときには別れなあかんねん」

「そうだな」

「せやから、それまでにたくさんあの子との思い出を作りたいねん。あの子が本当に楽しんで、笑って、悲しんで、泣いて。
そんな思い出を作りたいねん」


「…今日もその思い出の一つ、だな」

「あんたには無理させて悪かったかな?でも、もうあんたもウチらの家族みたいなもんやねん。せやから、どうしても連れて行きたくてな」

俺は晴子を見た。

「ん?どうしてん?」

「あ、いや…」


家族という言葉。

それはなによりも暖かい響きを持って、俺を迎えてくれた。

誰かと家族になる、ということ。それは、こんなにも優しく、そして得難い幸せ。

「ありがとう…」

大声で言うのが恥ずかしくて、ボソボソとしか言えなかったけれど、それは、俺の心からの感謝の気持ち。

「何、気色悪いこと言うてん」

そう言いながら笑う晴子の顔は、なんか、えらく優しかった。

「もう頭もまともになったやろ。そろそろ行くで。ウチは観鈴ちゃんとたっくさん思い出作るという使命があんねんから。
こんなとこでボーっとしとる暇、ないねん」

くそ、折角人が恥ずかしい思いまでして感謝の意を示したっつーのに。
まぁ、こいつなりの照れなんだろう、ということにしとくか。

「ほらほらっ!さっさと立ちっ!行くでっ!!」

「へいへい、今行きますよ、晴子ママ」

「うわ、きっしょっ!!なんやねん、晴子ママて」

「いや、やっぱ家族なんだし、こう言った方がいいかと思って」

そう言って、俺はニヤリと笑う。




「…やっぱやめ。あんたは家族にはまだ早い」

「うえっ!?なんだよそれは!?」



「…あんたはまだ、家族見習いや。せやからウチのことは”晴子さん”と呼びや」

そう言って微笑む晴子。

「分かった。おばさん」

「あんたは何を聞いとったんやっ!!」

「いや、やっぱこれはお約束ってやつだろ」

結局二人とも我慢できずに吹き出してしまう。
やっぱり、俺達にしんみりなんて似合わないな。



「ほら、さっさと行くで」

「うぃ」


そして、観鈴たちのところへ走っていく。






そう、確かにいつかは別れる。

いつかは、俺も、観鈴も、別れる時が来る。

でも、まだ別れちまうわけにはいかないよな?







抱えきれないほどのたくさんの思い出を作るまでは、さ。










                                  END


後書き

ペペ「冬の星座を見るにはそろそろいい季節になってきましたね。オリオン座とか。つーかそれと北斗七星しか俺、
    分かんないけど」

往人「星見るようなタマか?」

ペペ「いや、普段は見ねぇ(キッパリ)」

往人「アホか。あぁそう言えばちょっと気になったんだけどよ」

ペペ「ん?なにかななにかな?」

往人「当初の構想と全く違ってねぇか?確か、書き始めるときは俺と観鈴メインじゃなかったけか」

ペペ「鋭すぎ〜。いや、すごい作家さんたちがたまに言う『キャラが勝手に動き出す』って現象、初めて分かったよ」

往人「嘘つけ。お前にそんなもんが分かるなら、誰でもわかるわ」

ペペ「いや、違うんだ、多分。キャラが勝手に動くというのはたまに誰にでもあるのでは、と思う」

往人「じゃあなんでお前のは面白くないんだ」

ペペ「直に言うな(泣)まぁ、思うに、すごい作家さんたちはキャラが勝手に動くつってもさ、それがどんどん面白い方に動いて
    行くんだろう。それがすごい作家さんたちのすごいたる所以かと」

往人「じゃあお前は?」

ペペ「キャラが勝手に暴走するだけ〜(泣)」

往人「なるほど…」