小さい頃、あなたと手を繋いで歩いた。
私の手はあなたの手を握る。
あなたの手はそれを受け入れてくれる。
でも、あなたの方から握り返してくれたことはなくて。
贅沢な望みだと思う。
あなたは私の思いを受け入れてくれているのだから。
でも、あなたがいなくなって、随分と時間が経って、あなたへの思いは思い出となったはずの今でも。
何故か思い出すと胸がチクリと痛む。
Your hand → My hand
キーンコーンカーンコーン。
ベタなチャイムの音と共にホームルームが終わり、生徒達が教室を出て行く。
「祐一〜っ!本日の任務終了、だよ!一緒に帰ろ♪」
「なんだ、今日は部活休みか?名雪」
いつもの様に下校時の会話をする二人。
ただ、今日は名雪が部活が休みらしい。
「うん!今日は久しぶりに休みなんだよ♪」
そう言ってVサインをする名雪。
その姿をちょっと可愛いとか思う祐一だったが、表情には出さない。
「ふ〜ん。じゃ、久々に商店街でもブラつくか」
あからさまに可愛いとか好きだとかということを表現するのは恥ずかしい年頃なのだ。
「祐一〜!ここ入ろ、ここ♪」
「お前、ほんと飽きないのな(汗)」
放課後、二人がやってきたのは商店街の一角にある喫茶店、百花屋。
名雪と何処かへ出掛ける時には、誰もが必ず連れて行かれる場所である。
「ここのイチゴサンデーが最高なんだよ〜♪」
「知ってるよ。つーかお前と何回来たと思ってんだ?」
「それもそうだね〜」
そんなことを言い合いながら店のドアを開ける。
カランと鈴を鳴らしながらドアが開くと、店内の様子が目に入る。
「多いな…(汗)」
「だね〜(悲)」
平日にもかかわらず、放課後ということもあって店内はかなり混雑していた。
「でも、どうせ並んででも食うんだろ?」
半ば諦めが入った表情で祐一が尋ねる。
「当然♪」
名雪の言葉にがっくりと肩を落とす祐一。
…20分後、ようやくテーブルに着く。
「あ〜しんどかった…。待つってのは嫌いなんだよ」
「そりゃ待つの好きな人はいないと思うけど。でも待った後食べるイチゴサンデーは格別だよっ♪」
「はーっ…。そらよかったな(疲)」
そうこうしているうちにウェイトレスが注文を取りに来る。
「私、イチゴサンデー♪」
「俺はコーヒー」
二人とも、いつもと同じものを注文する。
「え〜!?祐一もイチゴサンデー食べようよ〜!」
「また今度な」
そしていつもどうりの会話をする。
「いっつもそう言ってるよ〜」
そう言って膨れる名雪。
しかし、それくらいで首を縦に振る祐一ではない。
祐一も食べてやろうかと思うことはある。
だが、名雪が食べている”ザ・甘い”的な物体を見ていると、どうしても食べる気が失せていくのだ。
しばらく雑談をしているうちに注文した品が届く。
「わ、来た来た♪」
ウェイトレスがテーブルに置く前に食べ出しそうな勢いである。
それを見ながら、やれやれと溜息をつく祐一だが、やはり祐一も普通の男。
好きな女の子が何をしようと、その姿が可愛く見えてしまうものなのである。
「モグモグ…おいしー♪」
満面の笑みを浮かべる名雪。
「そらよかったな」
もう苦笑するしかない祐一。
「あ、もしかして祐一も食べたい!?じゃ、あ〜ん♪」
「誰もんなこと言ってねぇだろ!」
「え〜?でも、何か物欲しそうな目で見てたよ〜?」
「絶対見てない」
「え〜?」
こんな感じでじゃれあいながら、二人の時間は過ぎていく。
店を出た後は二人でブラブラと商店街を歩きながらウィンドウショッピングをする。
名雪はあれが欲しいこれが欲しいと祐一にねだり、
祐一はそれに何かしらの理由をつけて逃げる。
それでも結局幾つか買わされて、祐一の懐は微妙に寂しくなってしまった。
けれど、祐一にとって、財布が軽くなったことなど大した問題ではない。
二人で楽しい時間を過ごしていることの方が、彼にとってはよっぽど大切なことだから。
「うわぁ〜、空が真っ赤だよ」
そう言った名雪の横顔も、陽の光を受けて赤く染まっている。
「そろそろ帰るか?」
祐一の呼びかけに名雪も頷く。
「そうだね♪暗くなる前に帰ろ♪」
そう言って歩き出す名雪。
祐一もそれを追う。
そして、祐一が名雪に追いついて、横に並んだ時。
「え!?」
「ん、どうした名雪?」
「だって祐一…」
「だから何だよ?」
「……。ううん、なんでもない。帰ろっ♪」
並んで家までの道を歩いていく二人。
夕暮れの光に照らされた二人の影は、しっかりと繋がっていた。
家までの道を歩く。
祐一と手を繋ぎながら。
最初祐一から手を握ってきた時はすごく驚いた。
と言うか、今でもまだ心臓がドキドキしている。
祐一の顔を見る。
何でもなさそうな表情。
でもホントはすごく恥ずかしがってるのがよく分かる。
どうして祐一が手を握って来てくれたのかは分からないけど。
私が昔のことを思い出して落ち込み気味だった事に気付いて、なんてことはさすがに思わないけど。
それでも、私が今一番望んでいたことをしてくれたのは間違いないから。
これからも彼とずっとこうして手を繋いでいられるように。
神様に祈りながら。
「?どうしたんだ、名雪。何か楽しいことでもあったか?」
祐一が不思議そうに私を見つめる。
だから私は、最高の笑顔で彼に答える。
「それはね〜、秘密っ♪」
後書き
ペペ「疲れるな。普通のSS。悩んじゃうよな、ふつうのSS」
祐一「つまりギャグ系だと、深く考えないから楽でいいってことだよな?」
ペペ「いえいえよもやそのようなことは…」
祐一「だからお前のコメディってつまんないんだよなぁ」
ペペ「そうなのかなぁ」
祐一「お前最近否定しねぇな(汗)でもまぁそれが真実か」
ペペ「いや、努力はしてるんすよ…」
祐一「頑張ろうぜ!」
ペペ「おう!」
祐一「ウソだよ〜ん(ケラケラ)」
ペペ「……(怒)」