季節は夏。つまり、暑いということだ。

「というわけであぢぃ〜死ぬ〜(半死)」

「大丈夫ですよ祐一さんっ!私の笑顔を見れば暑さなんて一発ですっ!」

隣ではしゃぐ少女。

「……。栞、お前もこの暑さにやられたか。可哀想になぁ、体弱いもんな」

「いろんな意味でひどいですね、祐一さん(泣)」

この炎天下の中、何故か公園のベンチに座って話している俺達。

時折腕にかかる噴水の飛沫も生ぬるく感じる。

栞に誘われるがままに夢遊病者の如く外に出てしまったがこれは失敗だった。

『ザ・失敗!!』と名付けてもいいぞ。

「詐欺だ…」

「?」

言葉巧みに俺を騙した小悪魔が、これまた小悪魔的に微笑みかける。

「こうして俺はずっと騙され続けていくのだろうか…」

「?祐一さん?壊れちゃいました?」

「うっさい。だいたい何か用があって呼び出したんじゃないのか?だったら早う用件を言え」



今日の朝、突然栞から電話があった。

『もしもし、水瀬ですけど』

『祐一さんですか?私です〜♪』

『私なんて人は知らん』

がちゃ。

プルルル…がちゃ。

『今度やったら地球上から消しますからね、祐一さん』

『いえっさー(汗)』

『祐一さんにどうしてもお願いしたいことがあるので、今から公園に来い』

がちゃ。



以上電話の内容だが、最後の『来い』に微妙に恐怖を覚え飛び出してきたというわけで。


「え〜!?もうちょっとお話ししてからでもいいじゃないですかぁ〜」

ぷぅとふくれる栞。

「黙れ。お前は俺が枯死する姿を見たいのか?」

これは冗談じゃないぞ。マジだぞ。

「む〜。じゃあ言います」

そこで一度言葉を切り、俺の方を向いた。

「プレゼントください♪」

それはもうはじけるような笑顔で俺を見る栞。

「ん〜と、栞君?何か記念日でもあったかな?」

「そうですね、ある意味記念日とも言えます」

「どんな?」

意味深な栞の言葉につい聞き返してしまう俺。

「祐一さんがプレゼントをくれたら、『祐一さんがプレゼントをくれた記念!』の日になります」


…な〜るほどね〜。そうだねー確かにそうなるねー。

「花束とかいいですよねー。今は夏だし、向日葵とか」

そうだねー。夏だもんねー。

「家帰ってクーラー付けて寝よ」

そう言ってふらふらと歩き出す俺。

アリンコに元気玉使うくらい無駄なエネルギー消費しちまったぜ。

「ああっ!?待ってくださいよっ!」

聞く耳持たずな俺。

「じゃなー」

真直ぐにこの世の楽園、クーラーを目指す。


「もうっ!祐一さんのバカッ!!」




                夏には光の花束を




水瀬家リビングへ到着。

エアコンによって冷やされた空気が俺を迎えてくれる。

あ〜生き返る。人類は素晴らしいものを発明したものよの。

「あら?祐一さん帰ってらしたんですか?」

キッチンから秋子さんが顔を出す。

「ええ。大した用事でもなかったんでサクサク終わらせてきました」

ほとんど時間の無駄だと言えたな。

「そうですか。あ、丁度お茶にしようと思ってたところなんです。祐一さんもいかがですか?」

秋子さんのありがたい申し出に、俺は二つ返事でOKし、ついでに名雪を呼びに行った。

水瀬家のティータイムはどこぞのお茶馬鹿とは違い、年中ホットというわけではなく、夏は当然
冷たいお茶を飲む。

まぁ、夏に熱い茶を飲むことが健康にいいという説もあるらしいが。

そんなこんなで茶をしばきつつ三人で談笑していると、名雪が俺に質問して来た。

「そういえば祐一、何処に出かけてたの?」

「ん?ああ、栞に呼び出されてな。ちょっと会って来たんだ」

思い出すだけでもあの怒りとだるさが蘇ってくる。

「わぁ(笑)こんなに暑いのにラブラブだね〜♪」

「馬鹿。そんなんじゃねぇよ」

しかし、名雪は一人で”ラブラブ〜”を繰り返している。

ったく、聞いちゃいねえ。


「あら?でも、栞ちゃんと会っていた割には帰ってくるのが早かったですね」

壊れた名雪に変わって秋子さんが聞いてくる。

「いや、その呼び出した理由ってのがあんまりくだらなかったんで適当にあしらって帰ってきたんです」

「うわ〜っ、祐一、最低」

さっきとはうって変わって名雪が非難の目を向ける。

「うっせ。わざわざこのくそ暑い中呼び出しといて、いきなりプレゼントよこせとか言われたら誰だって帰るわ」

「栞ちゃんがよこせって言ったの?」

「いや、言い方はもうちょっとマイルドだったけど」

「そういうこと言ってるんじゃなくて〜(汗)」

どうやら女性陣は、俺の行動に不服らしい。

秋子さんまで微妙に呆れたような表情だ。

「お、おい(汗)俺、なんかまずいことしたか?」

「鈍ちん祐一には教えてあげないっ」

名雪はご立腹である。

しかし俺には皆目見当がつかないのだが。

「祐一さん?栞ちゃんはそんなにいつもプレゼントをねだったりする子なんですか?」

どうやら秋子さんが助け舟を出してくれたようだ。

ちょっと考えてみよう。ん〜、冗談でならあるが、名雪やあゆみたいにこっちの都合も関係なく
ねだってくるということは、ない。

つーことは。

「どうして今回に限ってねだってきたんですかね?」

俺の言葉にまたしても二人、呆れ顔。

うっ(汗)だって分かんねぇもんは分かんねぇんだもんよ〜。

「ねだったのが重要なんじゃないんだよ〜。そう言った栞ちゃんの気持ちが大事なんだよ〜」

そうは言われてもな。

「栞ちゃんは祐一さんとの思い出が作りたかったんじゃないですか?好きな人と初めて迎える夏に、
何か特別な思い出を残そうと思ったから、そんなことを言ったんじゃないかと思うんですけど」

秋子さんも名雪と同じ考えらしい。

「どうせ祐一のことだから、いつもと同じデートしてたんでしょ」

その通りでございます(汗)

確かに、今考えてみれば今日の栞の行動は、いつもに比べたら少しおかしかった。

もし、名雪たちの言ってることが当たってるとしたら。


……ヤバい(汗)



次の日、学校にて。

「よぉ、相沢…って、おい、口からエクトプラズマが出てるぞ」

北川の声も今の俺には届かず。何もかも燃え尽きたぜ…。

「大変ねぇ、相沢君(笑)」

振り向くと香里が苦笑いして立っていた。

「……(泣)」

「何だ美坂、相沢がこうなった訳、知ってんのか?」

「まぁね。相沢君、栞、しばらくは口利かないって言ってたわよ。あの子一旦言い出したらしつこいし、
何したかは知らないけど、どうせ相沢君に非があるんでしょう?謝っちゃったら?」

香里さん、その通りです。僕が悪いです。謝りました。でもそれすら無視デス(泣)

「なるほどなぁ。んじゃ俺の話も無駄だな」

何か意味ありげにつぶやく北川。

「何か用か?北川」

「そうジト目で睨むなよ(笑)いや、もうすぐ花火大会だろ?」

「そうなのか?」

「そうよ」

香里が答える。

「それで、花火がよく見える穴場があるもんだからさ、栞ちゃんと行くんならどうかと思ったんだが、
喧嘩してるんならな」

「北川君もマメよねぇ。人の事より自分の事の心配したら?」

「うっ…。じ、じゃあ美坂、俺と行ってくれよ」

「嫌よ」

「……(泣)」

北川が撃沈する様をぼんやりと見ながら、俺は栞のことを考えていた。

そっか、花火大会か…。仲直りするには丁度いいイベントかもしれないよな…。

でもあいつ一旦機嫌悪くするとなかなか機嫌直してくれないしなー。やっぱプレゼントの一つでも買って
やらんと難し…


「…閃いた」

「あん?どうした相沢?」

「北川っ!その穴場ってやつを教えろ!今言え!すぐ言え!!さっさと言えぇぇええ!!!」

北川の襟首をつかんでガクガク揺らす。

「待てっ!死ぬ、マジで死ぬから!」

「ぬを〜っ!!言ってから死ね〜!」

半分逝きかけている北川をさらに揺さぶる。

「何気にひどいこと言ってるわね相沢君」

そんな俺達を見て、苦笑いしている香里。

笑って見ているお前も十分ひどくないか?





そんなこんなで、花火大会の日はやってきた。

ここ数日、本当に栞は口すら利いてくれなかった(汗)

今日こそ、なんとかしないとな。

早速、栞に電話をかける。

しばらくコール音が鳴った後、電話が繋がった。

「はい、美坂です」

幸運にも出たのは栞だった。

「栞か?俺だけど…」

「俺なんて人は知りません」

ガチャ。ツーツーツー。

「…俺と同じ手を使うとは…。やるな、栞」

しかし、ここで諦めるわけにはいかない。

再び電話をかける。

受話器をとる音が聞こえた後、

「美坂ですけど、しつこいですよ、祐一さん」

「頼むから話を聞いてくれよ。栞、お前と行きたい場所があるんだ。出て来れないか?」

「悪いんですけど、私、これからドラマ見るんで。じゃ」

「ものみの丘んとこで待ってる。栞が来るまで待ってるから」

ガチャリという音とともに電話が切れる。

栞は最後の言葉を聞いてくれただろうか。

「まぁ、今グチャグチャ考えてもしょうがないしな。…行くか」

俺はものみの丘へと向かった。










…私は机に突っ伏して考えている。

いや、考えているというより迷っていると言ったほうが正しい。

祐一さんからの電話。

いきたい気持ちでいっぱいだけど、でも素直になれない自分が”Yes”と言わせない。

ドラマを見るなんて嘘に決まっている。大体、実際そうだとしても比べるほどでもない。

それでも、行くと言えなかった自分が悔しい。

「はぁ〜。何で私ってこんな意地っぱりなんだろ」

呟いてみるけれど、その言葉は空しく部屋に響くだけ…

「栞、何してるの?」

のはずが、お姉ちゃんの声にかき消された。

「お、お姉ちゃん!?ノックくらいしてよ〜」

「ああ、ごめん。それより、あなた相沢君から誘われてんでしょ?出掛けなくていいの?」

「……」

何も言わなかったけど、お姉ちゃんは分かったみたいだった。

「なるほどね。栞の意地っ張りにも困ったもんねぇ。で、実際どうするの?」

「そりゃ行きたいけど。でも…」

「”でも…”じゃないわよ。行きたいんなら行く。大体ねぇ、この機会逃したらまたしばらく気まずくなっちゃう
わよ。それでもいいわけ?」

うー。分かってますよっ。

「ま、よく考えることね。行くか行かないか、決めるのは栞自身なんだから」

そう言うとお姉ちゃんは部屋から出て行った。

そして私は…







時計を見ると、午後7時を少し回ったところだった。

栞はまだ来ていない。

「まずいなぁ、あと30分もすりゃ始まっちまう」

なんて言ってる間にも栞が来る気配はなし。

はっきり言って、これで駄目ならさすがの俺も打つ手なし、だ。



あと5分。

さすがにもう諦めるしかないか。

俺は草むらにしゃがみこんだ。と…

「祐一さん?」

聞き慣れた声に光速で振り返る。

そこには何処か恥ずかしそうな顔をした栞が立っていた。

「えへへ、来ちゃいました♪」

「栞…」

「あ、あの、祐一さんごめ…って、キャッ」

俺は栞の手をとると、丘の頂上へ向かって駆け出した。

「ちょっ、ゆ、祐一さん!もっとゆっくり走ってくださいよっ!」

「時間がないんだ!急がないと間に合わなくなっちまう!」

栞の手を握って、頂上を目指して、

走る、走る。

そして



ドン!ヒュルルルル・・・ドーン!


「…きれい」

「はー。何とか間に合ったな」

俺と栞が頂上へ着くのと同時に、鮮やかな光の花が夜空に舞った。

次々と様々な色、形をした花火が打ち上げられていく。

「…なぁ、栞」

「何ですか?」

「どうだ?俺の用意した花束。向日葵とはちょっと違うけどさ。気に入ってくれたかな?」

栞は驚いたような顔をして、何か言いかけて、やめて、

そして、笑った。

「はい。とっても気に入りました♪でも、一日しか見てられないのが残念ですね」

「まぁ、そうだな。一瞬で枯れちまうしな」

俺も笑い返す。

「そうだ、祐一さん、頑張ってもうちょっと見せてください。三日くらいでいいですから」

「無理言うなって(汗)それに、三日も見てたらさすがに飽きると思うぞ」

俺がそう言うと、栞は笑ってこう言った。

「そんなことないですよ。祐一さんと一緒に見られるんなら」

「…栞、かなり恥ずかしいこと言ってないか?」

嬉しいけれど、恥ずかしさの方に耐え切れず、口に出してしまう。

が、栞は平然と、微笑ってこう言った。

「いいえっ恋人同士なら当然の会話ですよっ♪」


色とりどりの花火が夜空を彩り、二人だけの時間が過ぎていく。

とても幸せな時間。

たまにはこんなのもいいかもな。







祐一さんの横顔を盗み見る。ちょっとだけ照れたような笑顔。

ものみの丘に呼び出して、何をするんだろうと思っていたけれど、まさかこんなプレゼントがあるなんて。

来て、本当によかった。

お姉ちゃんに、後でお礼言わないと。

そして、当然この人にも。

「祐一さん、今日はありがとう」

『別に』なんて言いながら照れる祐一さん。かわいい♪

そして感謝の言葉とは別に、どうしても今、あなたに言いたい言葉がある。

「祐一さん?」

「ん、何?」

振り向くあなた。

そして私は、今の私の精一杯をこの言葉に込めて送ります。

あなたの心に私の思いがいつまでも残るように。

そして、いつまでも私がこの気持ちを忘れないように。





「祐一さん、大好きっ!!」








後書き

ペペ「え〜、今回のネタは某車のCMでジャン=レノが…」

祐一「分かったもういいもう何も言うな」

ぺぺ「分かりやす過ぎか?」

祐一「分かりやすいも何もパクリじゃねぇかよ」

ペペ「むぅ〜難しい」

栞「ペペさんの腕が上がらないのって、パクリ癖のせいなんじゃ?」

ペペ「!!(図星!)」

祐一「駄目作者に代わって俺が書くか、SS」