え?俺がバンドを始めた理由? …そんなのどうでもいいじゃねぇか(汗) 世の中知らない方がいいってことも往々にしてあるもんなんだぜ? ・・・・・・・・。 しつけぇなぁ。 そうだよ、そうです! モテたかったんです!! 悪いかよ!?バンドやる奴の大半はそんな動機なんだぞ!? え?それでモテたのかって? ・・・・・・・・・。 まぁ…人生色々あるさ…。 …なんだよ!?その人を哀れむような目は!? まぁ、確かにモテはしなかったけどよ、でも代わりにいいものも見つけたんだぜ? バンドなんて大したモンじゃないと思ってたんだけどな。 どっぷり深みにはまっちまった。 今はもう、モテるとかそんなの、関係ないな。楽しいんだ、バンド。 あ、でも、モテたくないってわけじゃないんだからな。 GROOVE!! Vol.3 オリジナルやります!! 基礎的な練習を続けていたある日、大分上達してきた佐祐理さんはこう仰った。 「曲を作りましょう!!」 「あの、佐祐理さん?曲を演奏しよう、の間違いでしょ?」 つーか、じゃなきゃオリジナルやるってことですぜ? いくらなんでも早すぎます。 しかし佐祐理さんは渾身の笑顔で俺の意見を取り下げた。 「いえ、やはり演奏するからには自分たちの作ったものでないと!!」 …来た。来やがったよ。 「無理ですって。確かにオリジナルって言うからには曲を作る人間のオリジナリティってのは重要ですけどね…。 それでもある程度コピーをやった上での経験があったほうが演奏に幅もできるし…」 「でも、出来ないわけじゃないんでしょう?」 「まぁそりゃ100%無理とは言いませんけど…」 「それに祐一さんの才能を佐祐理は信じてますから!」 …は? 「もしかして佐祐理さん…全部俺任せのご予定だとか?」 だとしたら不可能度は100%になりますよ? 一口に曲作りと言っても三つの行程がある、と俺は思う。 まずは曲の大まかな形、つまりはコード進行とか、メロディだとかを考える行程。 そして歌詞を考えてメロディにのせるという行程。 そして楽器によるアレンジ。 まぁ、順序はそれぞれにしてもこの三つは外せないだろう。 そして俺には歌詞のセンスがまるで、というほどないのだ。 一つ間違えば小学生か中学生の日記のような歌詞に…。 そのことを佐祐理さんに伝え、オリジナル断念を促す。 しかし、一度こうと決めたことはなかなか改めない佐祐理様。 「分かりました!では、歌詞は佐祐理たちが頑張りますから!!」 まぁ、そう来るわな。 ただ、歌詞というのは普通に詩を書くというのとはまた違った難しさがある。 曲にのせるということでかなり制限がかかるし曲のイメージなんかも考えないといけない。 …でも、ま。 それを今の佐祐理さんに言ったところでどうなるものでもないし。 「んじゃ取り敢えずみんなで一つずつ歌詞のようなものを書いてきてみます?それで無理そうなら諦めるってことで」 「そうですね、そうしましょう」 そんなこんなで次の練習までに俺がコード進行とメロディを考え、それにみんなが歌詞を考えて来るということで決着が着いた。 結局俺の仕事は増えたわけだ。 数日後。 俺の曲と言っていいか分からないもの(いいのかよ?)に、佐祐理さんたちが歌詞をつけて持ってくるはずだ。 スタジオ(倉田邸)にてメンバーの到着を待つ。 集合時間には全員集合。 時間にルーズな奴がいないのはいいことだな。 「では早速、歌詞発表会を開催しま〜す♪」 「どんどんぱふぱふ」 「いいぞいいぞ〜!まずは水着審査から〜♪」 「アホか。で、まずは誰の歌詞から見せてくれるんだ?」 そう言って周りを見回す。 皆自信に満ちた顔をしている。 …こりゃ望み薄だな。 自信満々な奴に限ってコケるってのはお約束中のお約束だ。 「では!一番倉田佐祐理、行きます!!」 いきなり御大の登場か。 さて、一体どんなボケ…もとい、歌詞を披露してくれるのか。 『ブルン、ブルン、ブゥゥゥーーン…。ブゥンブゥン、キキーッ!!ドッドッドッドッ…ブゥゥゥゥーーーーン…』 「……」 「あれ?祐一さん?」 「佐祐理さん…何て言ったらいいか…。取り敢えず、何故?」 「え?だって祐一さんの曲、なんか車かバイクで疾走するって感じのイメージが佐祐理の脳内に浮かんだんですよー」 「なるほど…。それでバイクの音を書き表した、と…」 「そうです!祐一さん、さすがに分かってま…」 「却下」 俺の言葉に驚愕の表情を浮かべるお嬢。 「なっ!?どうしてです?信号で止まってる時の音まで再現したのにっ!?」 本気で言ってんのか、言ってんだよな(汗) 「佐祐理さん…曲の時間、三分から四分をずーっとブルルンじゃお客さん疲れきっちゃいますよ」 ある意味面白いかもしれないけどさ。 「歌詞、なんですから一応意味のある文にしてもらいたかったです」 ていうか、最低限のルールだと思うんですけどね…。 「むぅ、そうなんですか。なかなか難しいですね」 そうですか。僕は泣きたいです。 「佐祐理はまだまだ。私が手本を見せる」 これまた自信満々で立ち上がる舞。 「おう、舞、頼むぜ」 舞はこくんと頷き、メモ用紙を広げた。 『はちみつくまさんはちみつくまさんはちみつくまさん嫌いじゃない。はちみつくまさんはちみつくまさん…エンドレス』 「待ってくれ…。色々あるけど、まずエンドレスじゃ曲が終わらない(汗)」 「終わらない歌。ブルーハ○ツも歌ってる」 「いやそれは『終わらない歌』という曲なんであって終わらないわけじゃないんだぞ?」 「…そうなの?」 「聞きたいかよいつまでも終わらない曲なんて」 「…イヤ」 「だろ?歌詞の内容もお前の口癖を書いただけじゃないか」 「祐一に仕込まれた」 「まっ!!相沢君エッチ!!」 「黙れ、触角を抜くぞ。とにかく却下だ!歌詞ってのは自分の気持ちを聞く人に伝えるものでもあるんだから」 はちみつくまさんじゃ客は何が言いたいのかさっぱり分からんぞ。 「はぁ〜。これじゃやっぱ、オリジナルは厳しいですよ、佐祐理さん」 「あ、おい、待てよ。まだ俺の…」 「そうですかぁ?んー、困りましたねー」 「いや、だから俺の…」 「祐一、もう一回チャンス」 「いや、その前にもう一人…」 「チャンスを与えるのはいいんだが…。ちょっと今のままじゃ難しいと思うぞ」 「……(泣)」 あ、泣いた。 「仕方ねぇな。北川、行ってみ」 ぱぁあああっと顔が。 いや、男にそんな表情されても気持ち悪いだけなんだけどな。 「よし、じゃあみんな、聞いてくれ」 そう言って立ち上がる北川。 メモは無し。 暗記してんのかよ。 『愛する君に僕の言葉は届かなくても 傍にいることだけは出来るか…』 「「「却下」」」 「うをいっ!!まだ最後まで言ってないんですけどっ!!」 「気持ちがないな」 「言葉だけ」 「と言うより何より触角さんに合いませんよー♪」 「あ、合わないって?」 「んー、お前に愛を語る資格なんてねぇよー、とかですかー?」 うわ佐祐理さん、厳しっ!! さらに疑問形になってるっ!? ああ、もう、プスプスと、こげ北川になってるよ。 「まぁでも、歌詞の内容はともかくとして。形としては歌詞っぽいと言えるかも知れない。二人に比べればな」 「「!!」」 「だ、だよな!?だよな相沢!?決して他の二人より劣ってはいないよな!?」 必死だな北川。 どっちにしてもレベル低過ぎだと思うけどな。 「ちょっと待ってください祐一さん…。私達の歌詞、触角より劣ります…?」 「え、いや、まぁどっちもどっちかな、と…」 「「もう一度チャンスを下さい(ちょうだい)!!」」 有無を言わさぬ剣幕で詰め寄る二人。 い、いや、例えチャンスを与えたとしてもまた同じことの繰り返しだ。ここはびしっと…はうっ!? 目が、目が…!! それぞれに訴えている、佐祐理さんは(コンクリコンクリ…)舞は(ボクサツボクサツ…)と…!! 「いいですよね?祐一さん?」 「ど、どーぞご自由になさって下さい…(泣)」 逆らえません。 次の練習日。 「祐一さん!!二人で作ってきました!!見てください!!」 こないだの剣幕を引きずったまま、佐祐理さん登場。 ああ、そんな姿、パパには見せてないですよね、佐祐理さん…(泣) 早速見せて頂くことにします…って、お? 「…どうです?」 さすがに今度は少し不安そうな顔の佐祐理さん。 「佐祐理さん、舞、これ、どういう気持ちで書いたの?」 「触角を潰す!!という気持ちで書きました!!」 コクコク!! 「いや、そうじゃなくて…。なんつーかさ、二人で書いたんだろ?その時何を思ってた…とか」 「え?あ、はい。そうですね、その時は…舞とこれからも一緒にこうしてたいな…って思ってたかな?」 「私もそう」 なるほど。 「いいんじゃないかな。その気持ちが伝わる気がしますよ」 「え?じゃあオリジナル…」 「取り敢えず、これで行ってみます?」 「は、はいっ!!やったーっ!!」 ま、俺も詩に関してはまるで才能ないし、他人のことはとやかく言える身分じゃない。 だけど、この歌詞に俺はすごく共感したし、感じるところがあったから。 うん、それに、俺達に合ってる。 「あ、ところで佐祐理さん、この曲まだ題が書いてないんだけど…」 「あ、それはもう決まってます!ね、舞?」 こくこく。 「へぇ、なんて題?」 「それはですね…」 曲作り=馬鹿4人×執念×友情?→歌詞、イケル? 続くよ 後書き 今回は歌詞ネタでした。 なんつーか、俺がバンドやってた時の最大の難関でしたね。歌詞。 やっぱり歌詞ってすごく重要な訳で。 結構、皆さん歌詞カードとか読むでしょ? それに共感できないとイマイチ…てことはあるものです。 ま、それをものともしないバンドもありますけどね。 歌詞意味不明だけど曲に力があるって言うか。 とにかく、バンドのなかで曲作りというのは一番の醍醐味。 一番の楽しみでもあるけれど、一番喧嘩の原因にもなりますわな。 そんな曲作りの雰囲気を少しでも感じてくれれば幸い…だけど、もし俺のバンドがこんなムチャな曲作り やってたら、俺は問答無用で脱退しますけどね。 |