Hello,Hello, my dear.

あなたはいつも意地悪。

私をからかったり、自分勝手を言って、私を困らせる。


Hello,Hello, my dear.

あなたはいつもぶっきらぼう。

でも、いつでも私を見ていてくれるね。
私を見守っててくれるね。
無愛想な表情に隠れたあなたの優しさを、私は知ってる。


Hello,Hello, my dear.


だから私は、あなたが好き。

私の気持ち、届いてますか?






            Hello My Dear





朝。
私はもう、目を覚ましている。

そして、どきどきしながらその瞬間を待っている。

チッ…チッ…。

時計の秒針が少しずつ動き、そして長針が、予定された時刻を差す。


カチッ。

『名雪、俺には奇跡は起こせないけど…』

朝の楽しみが、始まる。


「だらっしゃあ!!!!」

ほとんどドアを蹴り破るくらいの勢いで彼が私の部屋に入ってくる。

つかつかつか。カチ。


「あ、どうして止めちゃうの祐一〜」

彼に非難の目を向ける。

毎朝のことだし、彼の行動は分かってはいる。けれど、これはまぁ、お約束みたいなものだ。


「当たり前だろうが!!その目覚ましは使うなって何度言ったら分かるんだよ!?」

どうやら彼はこの目覚ましのアラームが気に食わないらしいのだ。
理由は分かってる。でもやっぱり、私はこの目覚ましで朝を迎えたい。

この見解の相違のせいで、ここ一ヶ月くらい、朝はいつもこんな調子だ。

「私がどんな目覚まし使おうと勝手だよ〜。それに、一応女の子の部屋なんだから、ノックくらいしてよ」


「ノックしてる暇なんかあるか!!大体、お前が目を覚ましてるのはお見通しなんだよ!!」


それは正解。
でも、私も祐一が知ってるのを知ってるよ。


「ったく…。お前が早起きできるのはいいことだが、これじゃ前と変わらないじゃないか…」


目覚ましの言葉を聞きたいって気持ちもあるけれど、やっぱり、朝一番に、あなたの声を聞きたいんだよ。

私が起きてるって知っていても、この目覚ましを鳴らせばあなたは私の部屋に来てくれるから。

それが私の一番の楽しみなんだから。


だから、やめられないんだよ。





早起きしているおかげで学校へは歩いて行けるようになった。

一緒に走って行くのも私は楽しかったけど、彼とたくさん話が出来るのはやっぱり嬉しい。


「は〜(汗)名雪が早起きしてよくなったことっていや、歩いて登校できるようになったくらいだな」

「あ、それひどい。もっとたくさんいいことあったよ〜」

おかげで、私の朝の楽しみが、どれだけ増えたことか。
少しでも好きな人と一緒にいられる嬉しさが、彼には分からないんだろうか。

「んじゃ、他に何があるか言ってみ?」

「う…」


でも、さすがに面と向かっては言えない。


恥ずかしいし、何より天邪鬼な彼のことだ、言ってしまったら次の日から目覚ましが鳴っても私の部屋に
掛け込んでくることがなくなるかもしれない。


それは、嫌だ。


「やっぱりないんじゃないか」

そう言って笑う彼。

もう、私の気も知らないで。









確かに早起きは出来るようになったけど、私の睡眠量全体が減ったわけではない。


つまり、授業中にやたらと眠くなるのだ。

特に、数学と世界史の時間は通常の倍、眠くなる。


そしてまずいことに、今、その世界史の時間なのだ。

眠ってはいけない、起きろ、起きろ私!とは思うものの体は言うことを聞いてくれず、
だんだんと意識も薄らいで…



こん。



あうっ!?

何かが私の頭に当たって、遠のきかけていた意識が、一気に引き戻される。

何?何?

頭を押さえながら周りを伺う。

そして、彼と目が合う。

意地悪そうなニヤニヤ笑い。間違いない、犯人は彼だ。

机の下にはノートを丸めたものが落ちている。

彼の『拾え!』という目の合図で、仕方なく拾う。

その丸まったものを開いてみると



『バカ』



と、それだけ書いてあった。

彼のほうをもう一度見ると相変わらずニヤニヤ笑い。


はぁ。七年経って、外見は随分変わった彼だけど、中身は昔からちっとも変わっていない。


悪戯好きの、子供。


少し呆れるところもあるけれど、でも、彼が変わってないことを喜んでいる私もいる。

やっぱり彼は、七年前、私が好きになった男の子なんだと、妙に安心してしまうのだ。

しかし、これも彼には言えないことだ。

恥ずかしいし、何より、言ったらまず彼は怒るだろうから。






帰り道は別々。

彼は部活をしていないし、私は部長さんだから。

そうそう一緒に帰ることは出来ない。

でも、今はそれでも構わないと思える。

家に帰れば、彼が迎えてくれるのだから。



「なぁ名雪、どうしてもあの目覚まし使うのかよ」

夕食後、突然祐一が話しかけて来る。内容は、例によってあの目覚ましのことだ。


「そりゃ使うよ〜。あの時の祐一の声、毎朝聞きたいもん」

「別に朝じゃなくてもいいだろ?せめて俺のいない時に聞くとかさ」


そんなに恥ずかしいのかな?

私が祐一の立場だったらどうだろう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


すごく恥ずかしい。


「う〜。祐一の気持ちは分かるけど〜…。やっぱりダメ!あの声のおかげで早起きできるんだもん!」

あの朝の楽しみがなくなってしまうのは耐え難い。

「目覚ましなくても最近は早起きできてるじゃねぇか」

うっ…。
痛いところを突いて来るなぁ。

「う〜っ……(泣)」

言い返す言葉が見つからず、もう、涙目で訴えるしかない私。


そんな私を暫く見ていた彼だったが、ふっと溜息をついて笑った。

「ったく…。しょうがねぇなぁ。あ〜あ、明日もまた名雪の部屋を襲撃か」

「祐一が諦めてくれれば丸く収まるけどね」

自分のことながら、よくもまぁ心にもないことを言えるものだ、と思う。
でも、こう言っておけば天邪鬼な彼のこと、きっと諦めるはずが…。

「そうだな、じゃあ諦めるか」


予想だにしない答えが。


「ええっ!?」

「何だよ、嫌なのか?」


うそ、うそ!?彼が大人しく人の言うことを聞くなんて考えられないことなのに!!

「えっ!?えっ!?んと、そうじゃないんだけど何と言うか私としても色々と準備があるというか諦めてくれるのは
ありがたいんだけど、その分私の楽しみが半減しちゃうと言うか…って、祐一?」


混乱しながら早口で言った後、彼を見ると、何処か変。

何か、肩とかがふるふる震えている。


「ぶはっ!!」


とうとう吹き出してしまう。それは、私をからかって、それが成功した時に祐一がよく見せる…って!


「祐一〜!!私をからかってたの〜!?」

「はぁはぁ…あ〜腹痛え。いや〜、えらく動揺してたじゃねぇか、名雪サン?」

「べ、別に動揺してないもん」

「はいはいっと。まぁ、目覚まし止めに来るのはやめねぇよ。あんな恥ずかしいモン1秒でも聞いてられやしないからな」

そう言って、優しく笑う彼。



「毎朝、ドア蹴り破って目覚まし止めに来てやるよ」

「…ドアは蹴り破らないで欲しいんだけど」





…私はいつも彼の気持ちを見透かしてる気だったけど、もしかしたら彼のほうが、そう思っている私の気持ちを、
見透かしていたのかもしれない。



…だとしたら非常に恥ずかしいことだ。
手玉に取っていたつもりで、実は手玉に取られていたとは。



でも、すごく嬉しくも思うのだ。

私の気持ちは、ずっと彼に届いていたのだから。


「どうした名雪、複雑そうな顔をして」

「べ、別にそんな顔してないよっ!!そ、そろそろ寝ようかなって思ってただけ!!それじゃ祐一、おやすみ!!」

慌ててその場を逃げ出そうとする私。が、

「おい、名雪…。寝るのはいいが、風呂には入らないのか?」

「入ってから寝るんだよ!もう、どうしてそう言うこと聞くかな!」

デリカシーのなさだけはほんとにどうしようもないんだから。


「そっかそっか。なら言うことはない。じゃ、また明日な」


「うん、また明日…」

そう言ってリビングを出る。
多分、顔は少し赤くなっているだろう。


どうして彼は、いつでも私の欲しい言葉をくれるんだろう。



また明日。
そう、また明日、だね。


明日もまた、幸せな一日を送れるかな。














Hello,Hello, my dear.

いつものことだけど、本当にあなたにはびっくりだよ。
何時の間に、私の気持ち、受け取ってたんですか?

そっけない顔で、実は私の気持ちを受け取っていて。

私の望む全てを叶えてくれている。

本当、あなたには敵わない。


Hello,Hello, my dear.

でも、だからこそ私は、あなたが好き。

今度は私があなたの気持ち受け取る番だね。



おやすみなさい、My Dear.

また明日、また明日。
それが何時までも続くように。

私は祈っているからね。











                                (色んな意味で)Fin



後書き

ペペ「よくもまぁ、あんな恥ずかしい事が言えるな」

名雪「言わせてるのはペペさんでしょうが」

ペペ「いや、それは違うぞ。私は宇宙意志に従って書いているのだ」

名雪「よくわかんないし、何かアタマ悪そうだね、ソレ」

ペペ「なにおぅ!!お前だって気持ちなんか伝わってるかどうかも分からないのに決めつけやがって!!」

名雪「なっ!?伝わってるもん!!こう、会話の端々から伝わってくるものがあったでしょ!?」

ペペ「はっ!あんな低脳にそんな高尚なことが…がふ」

祐一「ギャラクティカファントムは『どっか〜ん!』と決まる。押忍、祐一だ」

名雪「ゆういち〜!私の気持ち、届いてるよね、ね!!」

ペペ「だ、騙されてるんだ、名雪!そんな低脳…ぐちゃ」

祐一「名雪、それは秘密だ。イカす男ってのは秘密がモットーなんだ」

名雪「か、格好いいお〜!祐一〜!!」

ペペ「だ、だから…がく」