雪が降っている

白い雪

それは絶え間なく

終わることなく

降り続いている

煙と灰に彩られた

戦場の悲しみを覆い隠すかのように



         雪と煙とクリスマス



「よぉ、相沢」
「うっす」
陽気に声を掛けてくる北川に祐一はとりあえず挨拶を返す

戦場における兵員は常時明るい雰囲気を作り出そうとする
規則で決められているわけではない
そうしておかないと本当に気が狂いそうになるからだ

「こりゃしばらく降り止みそうも無いな」
北川が外を見ながら言う

夕方から降り始めた雪は夜になっても止むことはなく、むしろ強くなる様子を見せていた
窓の外は隣りの建物すらも見えない猛吹雪で、今現在における敵の襲撃はありそうに無かった

だからこうして二人ともゆっくりしていられるわけなのだが、完全にリラックスしているわけではない
戦場では一瞬でも気を抜いた時が死ぬ時なのだ

「…そういえば」
祐一が口を開く
「斎藤は?今日はまだ顔見てないんだけど」

「…あぁ、死んだ」
北川は淡々と応える
「……」
「昼頃に”あちらさん”の斥候と小競り合いがあったらしくてな。そんときにやられたらしい」
「…そうか」
祐一の応えもひどくあっさりとしたものだった

友人の死にもひどく客観的になってしまう自分達の感情に二人とも一瞬ゾッとする
だが仕方ないことなんだ、と最近は割りきるように努めている

そう、仕方ないことなのだ、生き残るためには

自分達の居場所へ帰るためには





「そういえば明日はクリスマス・イヴなんだな」
唐突に北川が切り出した
「そうか、そういやそうだな…」
そう言って祐一は外へと目をやった
ここにはいない、大切な人達のことを考えているのだろうか

「残念だな、今年はプレゼント渡せそうに無いぞ」
そう言って北川はニッと笑う
「だな。まぁ渡すとなると金がかかるし、それも勘弁なんだけどな」
祐一も笑い返す

ここではない、どこか平和な場所では明日になれば家族や大切な人と幸せな時を過ごすのだろう

それを当たり前の事として楽しむのだろう
だが、祐一達の目の前にある現実は死と隣り合わせなのだ



少し前までは自分達にとっても当たり前だったこと…



「あ〜あ、今年こそは美坂とクリスマスの夜を過ごしたかったのになぁ〜」
「いや、それは今年も無理だったと思うぞ」
「何でだよ…(泣)」

そんな当たり前の幸せすら叶わない非現実的に思われる世界で生きている二人が、必死で自分達の思い描く現実と繋ぎ合わせようとする悲しさが二人の会話に表れていた










あと数時間で今日が終わり、明日がやってくる

皆が待ち望む、クリスマスが……










雪が 降っている

絶え間無く 降りつづける雪は

すべてのものを 覆い隠してしまう

人も…煙も…血も…






祐一は、仰向けになって地面に横になったままただ雪を見ていた
すぐ側には弾切れになった銃、そして冷たくなった仲間達の身体

あるはずが無いと思われていた敵の襲撃があったのは、ちょうどクリスマス・イヴが今日になろうとする頃だった
不意をつかれた祐一達は防戦するも惨敗、ほぼ全滅という状況だった



「くっ、どこかやられたか…」
身体に走る鈍い痛みに祐一は顔をしかめる
「まぁ、こんな状況で生きているだけでも奇跡的だよな…」
立ち上がろうかと思ったが、身体が言うことを聞かず、結局諦める

「…そういえば北川は…?」
ふいに親友のことが頭をよぎり、首だけを回してその姿を探す
そして、自分の周りには彼の死体がなかった事を認めると安心したように目を閉じた


だが、現実は残酷だ
祐一が倒れている場所から数10メートル離れた建物の陰で、北川は物言わぬ人と化していた
状況はほぼ「全滅」
死はその場にいたほぼ全ての人間に平等に与えられていたのだから




降りかかる雪が徐々に重みを増していく




(痛い…苦しい…怖い…死ぬのは嫌だ…!)
様々な思いが祐一の中で渦巻く
(まだ死ねないのに…!まだ俺にはすることがたくさん…!)

思いとは裏腹に身体の方はもうピクリとも動いてはくれなかった
もう痛いという感覚さえ失われていた


意識も既に失われかけているのだろう
祐一が声を発することはない
身体も冷たくなってきている
このまま誰に看取られるでもなく死んでいく運命なのか…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・

静かだった時間がほんの少しだけ様相を変える
不意に祐一が口を開いた


「…ゴメンな…今年のクリスマスは…会いに行けそうもない…」
目を閉じたまま呟く

誰に言っているのか分からない
何故今になってそんなことを言っているのかも分からない
それでも祐一の独白は続く


「だけど…せっかくだから…やっぱり言っとかないとな…」




辺りはとても静かだった

祐一の声だけが

ただそれだけが

生を主張しているかのごとくに響く

立ち上る煙

降りつづける雪の中で

悲しく響く……





「メリー・クリスマス」






〜後書け〜

え〜なんと言いましょうか〜書いてて意味わかんなくなっちゃいました(汗)

なんでこんなの書いたかっつーと坂本龍一の「戦場のメリークリスマス」、あれ聞いて思い浮かんだ情景がこんな感じで

それを書いてみたらこんなんなりました、と。

イメージ的には「最終兵器彼女」が入っていたりいなかったり。

まぁ最近ブッシュがひどいことやってるので小心者の私はこれでちこっと糾弾してみようとか思ったりもしました。すんません

しかし書き慣れてないって怖いですなぁ。すでに文章じゃなし。

そ〜れ駄作箱へもう1個追加だ〜(泣)

ご意見ご感想、つーか特にご意見何かありましたら掲示板の方によろしくお願いしまする〜。